2014/07/25

乳幼児嘔吐下痢の治療 ~ 小児医療今昔物語No.1

私は1973年に医師免許を取得以来40年。その間の私自身の診療内容の変化を記憶の限りに書きます。

こんなことをするきっかけはいろいろありますが、一番の動機は、そもそもいま前期高齢小児科医になった宝樹がやってる診療は、このままでいいのか?というものです。

ですから、ここの記事はあくまで宝樹真理の考えでして、貴方が、この記事を鵜呑みにして、不利益を被っても宝樹真理はその責を負いません。

こうでも書いておかないと後で「訴えてやる!」なんて言われちゃうから。

そこで、最初のテーマをどうするか?

先天性****+症候群のような極めて稀な病気を私は知らないし、見たこともないし、これからも診る機会はない、と、思う。

やっぱり良く診る病気を考えたほうがいいよね。

これは博士論文でもなんでもないので、話はあっちこっちに飛びます(笑)

そこで、「乳幼児嘔吐下痢症」。まぁ、年長者でもいいけど、ここは乳幼児に。

嘔吐、下痢。熱はあったりなかったり。ぐったりしてない。嘔吐しても飲む意欲はある。下痢は水のようだけど、真っ赤じゃない。最近海外、特にアジアとかアフリカとかにでかけたことない。家族にも似たような嘔吐下痢あったりなかったり。ロタウィルスワクチン規定回数飲んでる。

こんな子は結構外来にきます。これを40年前はどうしたか?これはあくまで私の個人的体験です。

とはいっても卒後すぐの医師の治療、指示は指導医の管理下にあるわけで、私もその指示どうりに親御さんに指導するわけです。と、言い訳がましい。

で、どうだったのか?

まず、当時はあまり海外渡航歴を問診したことはなかった。

もちろん、ロタウィルスワクチンもなかった。

白色便性下痢症とか、仮性コレラとかよんだね。いまのようにロタウィルス、ノロウィルス、アデノウィルスなどの迅速診断キットもないから、纏めて乳児嘔吐下痢症とか白色便性なんたらかんたらだった。

便の細菌培養検査は良くやった。結果出るまで抗菌薬なんか良く処方した。

外来で、診察して嘔吐回数が多いと、例えちょっと飲めても「入院、絶食、点滴」が多かった。

入院すると、まず吐くから経口禁止して、必要な水、電解質などを点滴する。その点滴の内容、量は、ネルソンのテキストにある水と電解質の章にあるとおり。

つまり、脱水で失われた分(Deficit)、現状も下痢で失われる分(Ongoing losses)、維持量(Maintenance)を計算する。

直近の健康時の体重がわからない場合は、これがほとんどだけど、脱水状態を評価して、重症(ショック)なら体重減少10%、軽度~中等症なら体重減少5%、ほとんど脱水なし~軽症なら体重減少分は無視。

よくね、サウナで汗かいて、体絞って、体重減った!って喜んでる人いるけど、、それ危険です。短時間体重減少は脱水です。サウナ好きタレントで脳梗塞の人いたね、、名前忘れたけど。

話し元に、

いまのようにごく少量の血液であっというまに検査結果がでるなんてないので、検査結果がでるまで、ショックなら体重(kg)X20mlの生理食塩水を1時間で急速点滴。その間に排尿なければ、同量追加。

だいたいが、末梢循環が悪いと採血も難しいし、点滴も難しいから、、静脈切開なんてしばしばやった。

そうこうするうちに戻ってきた検査結果を見てその後の点滴内容を変える。

そこまで重くないけど、吐くから入院がけっこうあった。ショックじゃないけど、吐くから絶飲食。絶飲食で放置すれば脱水になるから、点滴する、ということだった。

こういう子は元気だから点滴も大変な処置だ。入ったと思ったら漏れた、なんてことはしょっちゅうだった。

その処置が苦手?で小児科辞めた研修医もいたけど正解です。ちょうどインターン制度がなくなった世代なので、実際の仕事を経験する機会がなかった。

で、嘔気がなくなったところで、ほとんどが半日~1日後から少し飲ませた。

何を?

牛乳を2倍希釈して少量づつ、ついで増量、重湯開始、なんてスケジュールだから嘔吐下痢で1週間入院なんてあった。後から知ったけど、こういう食事療法を@@法と言ったらしい。名前を思い出せない。

そんな毎日を送った。

1975年に川崎市の聖マリアンナ医科大学の小児科にうつった。これで、やっとまともな給料をもらえた。

最初はまだ小児科病棟ができてないので、いわゆる小児病棟。診療科に関係なく子どもが入院する。いちおう、科ごとの定員はあるけど、、季節労働者の小児科は困る。

小児内科もあれば小児外科も耳鼻咽喉科も形成外科も同居してた。だから、点滴漏れれば、小児科が主治医でなくてもちょこちょこ点滴やら採血やら処置した、というか、させられた。

が、一方で他科の先生の話しも聞けたので、とても役にたった。

病院はどこも同じだと思うけど、管理運営会議というものがあって、各診療科の部長が出席する。部長が都合悪ければ代理が出席する。

いつだったか、就職して大部たってから部長から代理出席を頼まれて出席した。各診療科の売上を一覧にして、事務方が評論する。

何故か代理の私に意見を求められた。

私は、若気のいたりで「土曜日の退院を減らして欲しいと言われても良くなったら少しでも早く家で家族と過ごすのが小児科医の目標です。小児科の収入、点数が低いのは小児科医の責任じゃないし、入院患者数が少ないと言われても必要ない入院を指示することもないです(腹のなかで、じゃぁ,なにかい、他の診療科ではむりやり入院させてるの?)」

いまじゃ、入院したくてもベッドがないとか、、時代は変わった。

そんなこんなの日々。

が、

30数年以上も前、大学病院。冬、病棟にベルギー人の医師(WHO所属)が来院して、部長が私に小児科病棟を案内せよと命令。

私中学英語で応対。乳児室で、季節柄嘔吐下痢で点滴中の赤ん坊が大勢入院。泣いて賑やかな部屋。

WHODr「この子らは飲めないのか?」
私「いえ、飲める」

Dr.「なぜ点滴?飲めるなら点滴無用」
私「?」

Dr.「点滴を飲ませればいい」
私「飲ませると嘔吐、下痢がひどくならないか?」

Dr.「1日の維持と出る分を足して飲ませればいい」
私「その計算で点滴してる」

Dr「なぜ口からでなく、点滴する?」
私「?」、、と、∞ループ(笑)

Dr.「Nelsonのテキストはあるか?」

医局から持っていく。

Dr.「Pathophysiology of Body Fluids and Fluids Therapy 読んだか?」
私「卒後、指導医にこれを読め、分からないことがあれば質問するように、言われた」

小児科医になっていくつか専門分野先輩の講義がありました。その中でいまでも印象に残っているのは、O先生。

曰く「君たちはネルソンの教科書にあるPathophysiology of Body Fluids and Fluids Therapyを読んだか?まだなら、私の講義は君たちがそれを読んだ後にする」と。読むのに時間を要して、結局講義はなかったが、実践に役立った。

Dr.「飲めるなら、計算して点滴するものを飲ませなさい」
私「それはどこに書いてある?」

Dr.「バングラディッシュなどのコレラ治療に使ってる。さっきの子どもはコレラじゃないが、起きてることは同じ。君は自分の子どもが点滴でも自宅で飲ませても同じと知って点滴したいか?」

Dr.がその後、英語の分からない私に確か2時間以上もかけて説明。中学英語でも対応できてよかった。

WHODr.にこっと笑って、ランチを終えて、帰っていった。

そこで、小生、自分が外来で診察した嘔吐下痢の子は、入院させずに、あらかじめ作った処方を家族に作らせて飲ませることにした。私の指示する入院が減ったが外来診療時間が長引く。でも外来の看護師苦情嫌味言わない(病院経営に悪影響)。

その処方内容は、なんと味噌汁に近いNa濃度。

吐いても飲める、飲む意欲があるなら、口に点滴するイメージで飲む。

何を?

ポカリスエットでは塩分が薄すぎる。

WHOが勧めるORS(Oral Rehydration Solution)は発展途上国の下痢嘔吐脱水による死亡を減らす目的で作られた。

WHO正規のORSはこちらを参考にしてください。最初の1978年の物からより改善されてる。

感染性胃腸炎(嘔吐下痢症、ロタ、アデノ、ノロウィルスが多い)。発熱、嘔吐、下痢組合わせ。典型例突然嘔吐(数時間~1日くらい)、前後して水様下痢(米のとぎ汁様あり->昔、仮性コレラと)。体から水と電解質(塩分)が出るので補う。出る=飲むの帳尻合せ

嘔吐下痢でORS、O製薬OS-1?。

しかし安く、自宅で母親が作れるもの。食塩3g(生理食塩水の1/3)+100%リンゴ果汁200ml+砂糖25gに白湯加えて1Lにしたもの、メモ渡す。味噌汁+重湯+梅干もNa、炭水化物、クエン酸。

水分と言うだけじゃダメ

ソリタ-T顆粒2号(1包4gを白湯100mlに溶く)。電解質(mEq/L)はNa=60,K=20,Mg=3,Cl=50,PO4=10mmol/L,クエン酸=34mEq/L、13Kcal。脱水程度が軽~中等症(強い抹消循環不全がない)に、ORS飲ませている。

ORSを少しづつ、例えばスプーンやお猪口、ぐい呑なんかで、口に点滴するイメージで与える。吐いても飲む意欲があるなら、ちょっと間をおいて続ける。

40年前に入院、点滴、絶食治療が、30数年前に外来、ORSになり、更に今はロタウィルスワクチンのお陰でロタウィルス胃腸炎が激減して、入院はもちろん、外来患者も減って楽になった。

小児科医が楽になったということは子どもが楽になったということです。

ネルソンの小児科19版のPathophysiology of Body Fluids and Fluids Therapyは更に詳細な記述でカラフル。しかも、オンラインでタブレットで読める。

もう重篤な脱水を自分で処置することもないだろう、、でも、いまの知識を注入しておこう。忘れないうちにね。

最後にもうひとつ。小学校の夏、渋谷区は千葉県富山海岸の施設に臨海学校で、芝浦の竹芝桟橋から東海汽船?で行った。

恵比寿に返ってからか、はたまた船の中からだったか、確か赤痢が出たようなおぼろ気な記憶。50年前はそんな日本でした。

いまのほうが絶対にいいのだ!

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